バンダイ HG 1/72 メイレスジョウガン改第三回 憎悪と怨嗟と投機的転売



 バンダイ1/72ジョウガン改はアニメ「境界戦機」第一期21話(第一期第二部8話)『動乱の兆し』→第21話|アニメ 境界戦機【BANDAI SPIRITS】 - YouTubeから登場するロボットの模型。

第一回
→模型概要
→模型詳細
→ポリキャップ不使用
第二回
→片持ち関節
→1/72スケールの縁(えにし)
第三回
→憎悪と怨嗟、ガンプラファンから恨まれた境界戦機
→バンダイのブランド戦略と流通戦略
→構造改革がもたらす投機的転売

 第三回は模型本体ではなく周辺事情について言及したい。これは憎悪を招いたのである。

憎悪と怨嗟
 境界戦機プラモシリーズが発売され始めた2021年後半、折からのCOVID-19による巣ごもり需要をもって模型が売れていた。矢野経済研究所によれば、2020年度プラモデルの国内出荷額は前年比三割増、四百億円を超え、翌2021年度は前年比約8%になるも四百億円以上を維持した。

 バンダイの看板商品ガンダムプラモ略称ガンプラも好調になり品薄が続いたが、そんななか次々入荷されたのが境界戦機プラモだった。
ガンダムプラモを求める人々から、境界戦機が生産資源を奪っているためにガンダムが圧迫されているとして恨まれたのだった。

ブランド戦略と流通戦略
 だが境界戦機がなかったとしても、ガンプラの生産量は制限され続けただろう。それがブランド戦略だからだ。

顧客がブランドに飽きてしまってはその価値が毀損する。ブランド維持のためには顧客をつねに「飢餓」状態に置くのが望ましい。字義通りの意味ではなく商品が品薄で入手しにくい状態のことだ。
だからつねに品薄状態にする(プル戦略)。それでも顧客は商品に引っ張られる。

対して新規ブランドたとえば境界戦機は知名度に欠けるため売り込みを行い、消費者の目につくよう営業コストをかけて出荷する(プッシュ戦略)。余剰在庫が発生して利益率を下げたとしてもそれは先行投資だ。
そうしてガンプラを入手できなかった人々は目につく境界戦機を恨んだ。

 販路維持にもコストがかかる。
顧客層が明確で固定されているブランドは販路を狭めても売れる。とくに高級ブランドは直営店に注力して営業コスト削減を進めてきた。インターネットが実現した直販の拡大も営業コスト削減を進めた。

 ガンプラの場合は今も他社店頭に卸しているが、前述通りつねに品薄で、店頭で抽選販売されることさえある。
その一方、バンダイ直営店では在庫を潤沢に用意して(あるいはそのように見せかけて)集客、仲卸を介さず利益率を高め、顧客の需要動向を直に観察する。その直営店でさえ今は整理券配布や抽選販売をしているという。
 副次効果として、直営店の観光地化により地元自治体に影響力を持つようになると考えられる。しかし公害や原子力ムラの先例に見られるように、企業の政治的影響力増大は必ずしも良いことではない。

新自由主義がもたらす投機的転売
 ガンプラが投機対象としてにわかに注目されたのは2010年代後半以降のようだ。

 新自由主義構造改革(間接金融から直接金融へ、貯蓄から投資への政策)は投資家・資本家の資産を増やし、労働者階級の所得を抑えてきた。結果、労働者階級は支出を抑えてデフレスパイラルとなった。1990年代末から'00年代のころだ。
東証市場で為される取引のうち八割は二次取引──転売だと言われる。政財官界は転売で儲けることを勧めてきた。それが構造改革だ。

2010年代になって新自由主義者はデフレが病気だと吹聴して異次元の量的金融緩和を始めさせた。
構造改革によりトリクルダウン現象が慢性的に阻害される新自由主義的環境下、アベノミクスの量的金融緩和策は株価収益率を倍加して投資家・資本家の資産を増やす一方、労働者階級の所得を抑え、平均賃金でも雇用者総報酬でも増加率を抑えてきた。
資産効果を低下させてデフレ脱却するためにはトリクルダウン現象が起きる経済構造でなければならなかったが、構造改革によりその現象は慢性的に阻害されていたのである。アベノミクスは始めから失敗が企図されていた。

 労働分配率が低下して可処分所得が減った労働者のなかには、投機的転売をするようになった者がいると見られる。貯蓄も所得も低く証券口座も持たない人々が小遣い稼ぎとして始めたのだろう。
せどり若しくは転売ヤーと俗称される投機的転売は、儲けられそうな品を探して2010年代後半から、とくにCOVID-19以降ガンプラに辿り着き、転売価格を高騰させてきた。

 これを擁護するのもまた新自由主義者でありアベノミクス支持者であった。
いわく、他人より早く入手する努力をした、高額で商品を買う人々に代わって購入した、高額で売れるのに発売企業が廉売しているから真の価格で売っている……等々、投機的転売を擁護した。

 自分が欲しいわけでもない商品を買う(=最終消費者ではないのに買う)行為の動機はカネを稼ぐためだ。
もし労働によって十分な所得を得られるなら投機的転売を行う者は減るだろう。金銭的余裕が生じる一方、時間的余裕が減って転売対象となる商品を探せなくなるからだ。
そのためには労働分配率を上げなければならない=株式配当や経営者利益を減らさなければならない。
しかし、株主優位の経済体制を望む新自由主義者は労働者の賃金を上げるより、転売で小遣い稼ぎをすることを労働者階級に勧めるだろう、いや勧めている。
だから新自由主義者アベノミクス支持者は投機的転売を擁護する。

にもかかわらずオタクは新自由主義政策に投票し続け、賃上げを求める労働組合運動を嫌い、アベノミクスも支持してきた。
私がオタクそしてネトウヨを批判する一因だ。

・生産者が消費者と直接取引する商行為を直売、それ以外の商品取引を転売と定義すれば、それは日常的に行われている。
また転売を、最終消費者以外が商品を買う行為と定義すれば、直売以外はすべて転売でやはり日常的に行われている。
市場経済においてそれは貿易であり商社であり卸業であり小売業だ。なお最終消費者が商品を転売することもある(中古品売買)。

では投機的転売と、それら日常的に行われる商行為と何が違うのかと言えば、商品流通を阻害しているか否か、流通の円滑化に寄与するか否かだ。
商品流通を阻害してまで行われる転売は買い占めであり、値上がり益を狙う投機である。
それがもたらす状況は、擬似的な寡占状態であり選択の自由が失われた状態だ。

・企業が生産量を増やせば、投機的転売がつけいる隙が減る。
しかし少量多品種生産を行う模型会社は余剰生産しないよう生産量調整を避けられない。
そして高値で転売されることはブランド価値が維持されている=ブランド戦略が成功していることでもある。
バンダイが投機的転売を苦々しく思っていたとしても、その解消のために生産量を増やすことはそうそうないだろう。生産量増加に伴い投機的転売が妥協して値下げすれば流通量が飽和してしまう(=余剰在庫が発生する)からだ。
しかし経済を最優先しないならば、生産量を増やすはずだ。実際批判が相次いだ2022年2月には出荷量を増やした。

・なぜ同社はガンプラ生産に集中しないのだろうか。
境界戦機が成功すればガンダムの向こうを張るシリーズになる。不首尾に終わるとしてもガンダムの当て馬として機能しガンダムブランド維持に貢献する。どちらにせよ、バンダイが成長を目指すなら挑み続けるだろう。ガンプラ生産に集中することは老成することではないのか。

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