うちの師匠はしっぽがない

 これはたぬきアニメだ。大正期大阪を舞台に、人の世で落語家として生きる化けぎつねが、人に追われる化けだぬきを助けたら、弟子入りされるアニメ。ともに生まれ故郷を追い出され、或いは出帆して人工的な都会に住み着く。
TOKYO MX毎日放送等で放送され、auスマートパスプレミアム、Hulu、U-NEXT、ひかりTV等で配信中。
またBS朝日で2023年1月3日早朝から一挙放送予定。

13話までみた。しっぽさえ見せない化けぎつねが、妖術も使わず人々をたばかる落語を語るさまをみて、主人公は化けだぬきとして精進するため落語家になると言い出す。
7話か8話、もしくは最終回からみたらいいと思う。それまでは、なんとなく雰囲気が良くてたぶん面白いアニメなんだろうなあ、という感想に留まる。

 さて、お笑い芸は不況を象徴する分野だとどこかの経済学者先生が申すとおり、時代劇やアニメほどカネも人手も要しない安上がりな芸能でございます、そこに巣食っている芸人というのもまた安っぽい連中でして、借りたカネもろくに返せなけりゃ肺を病んでいるのに煙草を止められずメトロノームなしでは満足に喋れないようなやつらばかり、作中、憎まれ役が芸人を「釘の一本もこさえんで」と罵倒するとおり、なんの生産行動もできない役立たず、景気がいいときには厄介者でしかありません。なにせ人が世間の役に立つと信じて仕事しているときに、わての話を聞いてんかーとまとわりついてくるのですから評論家並みに鬱陶しいことこのうえない。
人々が満ち足りた生活を送っているときには、自然と笑みがその間からこぼれるものでして、わざわざ芸人の下世話な話なんざ聞く価値もなければ他人の不幸を喜ぶよこしまな気も起こらないというのが道理でございましょう。

ところがパワハラだー検査不正だ格差拡大だなんだと仕事や生活そのものが厄介事になったら、つい手を休めて芸人に耳を傾けてしまう、そんな世情になったら能無しの芸人にも出番が回ってくる次第、しかも不況ならなおのこと、二十年とも三十年とも続く不況なら、芸人が勢いづくものでございます。
そう、芸人とは不況が長続きすればするほど得する、まさしく禄でもない連中でして、しかも現実世界では権力者にへつらって太鼓持ち、貨幣の流通速度が落ちているのに景気がいいとうそぶき、あげくの果てにはオレオレ詐欺を擁護する者まで出る始末、まったく迷惑な連中でございます。

そんなちんけな存在である芸人に嫌がらせして喜ぶ金持ちがこのアニメには登場しまして、それがまたいけすかない野郎なんでございますが、そんな憐れな産業資本家にさえ、このアニメの主人公は、また来ておくれとやさしい眼差しで声をかける……とかなんとかいったアニメである。


件の金持ちが嫌がらせする場面は「春琴抄」の一場面を思い出す。大店の若旦那が設けた宴席で、盲目の三味線奏者をからかい、後日ばちで反撃される場面。
なお春琴抄は明治の話で舞台は大阪、一大工業都市となって昭和初期には東洋のマンチェスターと称され、大大阪(だいおおさか)とも呼ばれた都市である。