境界戦機

 


 「境界戦機(きょうかいせんき)」は戦後日本をやり直そうというアニメだ。そして、ネトウヨが好む要素が盛りこまれているにもかかわらず、なぜかネトウヨから嫌われ攻撃されているという奇妙な現象を起こしているロボットアニメだ。

テレビ東京BS11等で第一期再放送中、2022年4月から第二期開始。

 

12話までみた。2061年、経済破綻している近未来の日本を舞台に、支援にかこつけた四大勢力圏が日本を分割統治、その境界で散発的に戦闘が発生している、という設定。

各地域内で進駐軍統治権を拡大あるいは外資が国内資産を取得しているなか、独立復権派が抵抗活動している、という話である。

 

 日本を四分割する案は第二次世界大戦末、連合国軍が計画していた案になぞらえたと考えられ、また主人公が終戦後百年の2045年生まれに設定されていることから、戦後日本をやり直す構想に思われる。

その構想から、このアニメは最後に自主憲法を制定し、ネトウヨが手のひらを返して絶賛し始め、与党議員とともにシオンプラモを買い漁る、と予想しているのだが、現状激しく非難され国辱アニメとまで呼ばれているところを見ると、この懸念は杞憂に終わりそうである。

 

 放映前の番宣をみたときには、またこんなネトウヨ好みのアニメなんか作りやがって、twitterアニメアイコンだけ見てマーケティングしているのかバンダイナムコ!と思ったものだが、1話はわりと出来がよかった。首を傾げる要素があるものの、どうにもならんひどいものではなかった。

 

一見正義を行使しているように見えて、権力と暴力をふるって出世欲を満たそうという軍人に、力を持たない者=主人公が歯向かって逆転するカタルシスなど、話の運び方は特段酷評されるような1話ではない。

 

3話4話で正体不明の無人機が登場して以降、迷走・失速し始めているように見えたが、見方を変えれば楽しく思えてきて、ネトウヨから非難されていると知るや(反動で)さらに楽しんでみれるようになった。このブログ記事のように、左派の私でも長々と話題にできる楽しいアニメだ。

話題にされるということは芽があるということだから、落胆することなく製作を続けていただきたいところ。

このアニメが、衰退した日本を建て直すネトウヨかっこいいアニメを目指しているとしても、日本の衰退を描くことは必ずや先見性があったと再評価されるようになるだろう。実際に日本が衰退してもしなくても。

 

 そんな私が気になっているのは、この作品世界におけるカジノ特区や消費税、国債である。

 カジノ特区は作中言及された「支配と隷従」を表すには好都合な舞台装置、パチンコを憎むネトウヨは説明不要で演出意図を理解するだろう。なお親会社のバンダイナムコはカジノ機器を製造販売している。

 

 消費税は現在より増えていると考えられるが作中明示された記憶がない。

5話にはおにぎり百円セールをしているコンビニが登場する。そんなコンビニに見られるように、背景画が現代日本と大して変わっておらず、表面上経済破綻国家に見えない、というのが首を傾げるところだ。

 

ひょっとすると、当該コンビニは借金してでも輸入品を入荷するよう進駐軍から強要されているために、足が早い食品を売り切りたい、という演出かもしれない。

また、このアニメが戦後日本をなぞっているなら、舞台となる2061年の百年前1961年は所得倍増計画発表の翌年、高度経済成長期1955~73年の最中にあたり、作中でも経済が上向いているはずだから、物資が豊富でもふしぎではないという演出かもしれない。

そう言えば作中、食糧問題や地球温暖化の影響が見られない。ネトウヨの主張では温暖化はウソだから、やはりこれはネトウヨアニメ。

 

好況なら、主人公が属する抵抗組織は、経済を優先する日本人や平和主義日本人から恨まれるようになるだろう。

なお作中に登場する日本人多数は外国勢力に好印象を持っておらず、例外は僅かに7話に登場するたい焼き屋の中年男性が親米いや媚米的態度を示し、9話に登場する自治区代表が進駐軍に妥協する程度である。

 

 国債については全く言及されていないが、7話で北米軍将校がたい焼きを買って東京を散策しながら、都内不動産のほとんどを北米資本に押さえられているという、竹中平蔵が成果として報告しそうな状況設定を説明する場面がある。

作中で経済破綻したなら国債も暴落し、略奪的融資の対象にされているのではないか。

 

1960年代の日本は世界銀行から借り入れてインフラ整備し、外資に支えられた経済成長でもあった。と同時に間接金融経済体制を1950年代から整備して、1970年代には石油危機があったにもかかわらず外資に頼ることなく赤字国債を発行、国内資金で済ませるほどになっていた。これはバブル崩壊後も変わらず、赤字国債を国内資金で済ませている。

外資依存度が高いままだったなら、史実以上に外因に左右されやすい経済(不況耐性が低い経済)になっていただろう。しかし構造改革を行い間接金融が弱体化、外資による国債保有比率は上昇した。

そう言えば作中の日本はゼロ金利流動性の罠から脱け出しているのか。

 

 さて、このアニメは9話か10話で三菱MRJ スペースジェットと思しき飛行機(だと思うがホンダジェットだったかもしれない)が飛び、

※2022年3月27日訂正:10話に登場するプライベートジェットは三菱MRJでもホンダジェットでもなかった。

登場人物が「日本を取り戻す」「高度な情報戦」と言い、中国を模した勢力圏から日本人を救うなど、ネトウヨ好みの要素が見られ、さらには中国の動画配信サイトbilibiliで配信中止にされたらしく(作中ではなく現実)、ネトウヨが表彰しそうな憂き目に遭っている。

であれば、こぞって礼賛されるはずなのに、なぜか攻撃されている。

 

かくなるうえは、ネトウヨ好みの要素をどんどん盛り込んでいったらよいのではないだろうか。

経済破綻前の日本はTPPでV字回復して中国・韓国と断交、対中・対韓貿易が無くなり、中国との軍拡競争及び米国への戦争協力により防衛予算が膨張して財政を圧迫、国債外資に引き受けてもらって外資依存度を高め、対外債務増加が通貨下落と資金流出を促し、核武装して強い態度に出れば周囲がなびくと思ったら経済制裁を受け、世界有数の債権国でもある日本が融資を各国から引き上げようとすれば、それを心配した各経済圏が支援に来て、世界から尊敬される日本を核武装解除、といった設定を盛り込んだらネトウヨから「うおおおお!おれたちの境界戦機!」と絶賛されるに違いない。

関連記事→境界戦機 第二部


主役ロボットが前のめりになりやすい脚関節、その重心位置から、ローラーダッシュさせたらいいんじゃないだろうか。

ローラーダッシュ:ロボットが足裏の車輪で走る(架空の)機構、「装甲騎兵ボトムズ」(1983年)等で使われ、このアニメでも北米軍ロボットに使われている。

※北米軍の機体はローラーダッシュではなくホバー走行